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「ブルーライト」の正体とPCメガネの効果

最近PC用のメガネというものが巷に出回っており、にわかに流行しています。しかし、間違った認識で購入してしまう人もいるようなので、警鐘を鳴らす意味でこのページを書きました。

※このページは「(元のページが)長すぎて最後まで読む気がしない」という批判が同僚から寄せられたため、大事な部分だけ抜粋したページをつくりました。要点だけを読みたいという方はこちら「ブルーライト」の正体とPCメガネの効果(まとめ)をご参照お願いします。

2012/11にPCメガネのよくある誤解を集め、新しいページを作成しました。よろしければこちらもご参照ください。

LED液晶ディスプレイ

PCメガネのサイトで共通して問題としているのは、LEDをバックライトに使用した液晶ディスプレイです。これをこのサイトではLED液晶ディスプレイと呼びます。

最近はパソコン・液晶テレビ・スマホ・携帯ゲームなど多くのデジタル機器でLED液晶ディスプレイが採用されるようになってきました。そしてPCメガネの業者は、LED液晶ディスプレイから「ブルーライト」なる耳慣れない有害な光が特別に多く出ているかのような説明をし、不安をあおってPCメガネを販売しています。


ブルーライトとは

多くのPCメガネのサイトで共通して書かれている「ブルーライト」。耳慣れない言葉だと思います。しかし「ブルーライト」とは、目に見える単なる青い光の事です。特別な光ではありません一般的には青色光と呼びますが、なぜかPCメガネのサイトでは「ブルーライト」と特別な呼び方をしています。このページではPCメガネの話をするため、各社の習慣に合わせ「ブルーライト」の呼称を使用することにします。またPCメガネ販売業者は380-400nmの、紫外線も含めて「ブルーライト」と呼んでいます

特に青空は「ブールライト」そのものともいえます。※快晴時の青空光に含まれる「ブルーライト」は、LED液晶デスプレイから出ている「ブルーライト」に比べ、はるかに多くなっています。おそらくは十倍程度かそれ以上になると思います。ちなみに青空光とは一言で言えば青空部分の光のことで、太陽光とは区別されます。

また白く見える光(白色光)には必ず「ブルーライト」も含まれています。そして、その強さに応じて一定の割合で緑の光と赤い光が含まれています。青い光と緑の光と赤い光の3つの光がバランスよく混ざると白色光になります。弱い白色光には「ブルーライト」と緑の光と赤い光が少しずつ含まれ、強い白色光には「ブルーライト」と緑の光と赤い光がより多く含まれます。

「ブルーライト」は、LED液晶ディスプレイからの光にも含まれていますが、蛍光灯や太陽光にも必ず含まれています。そして、蛍光灯や太陽光に比べ、LED液晶ディスプレイから「ブルーライト」だけが特別に多い割合で出ているという事実はありませんもしも「ブルーライト」だけが特別に強ければ、全体的に青みを帯びた色調になります。逆に「ブルーライト」だけが弱ければ、黄色みを帯びた色調になります。

色合いが変わらないのに「ブルーライト」だけが特別に多くの割合含まれるということは、物理的にありえません。これは光の三原色の原理の基本です。



LED液晶ディスプレイのブルーライト害悪説の信憑性

「LED液晶ディスプレイのブルーライト」害悪説が正しいとするならば、「ブルーライト」そのものともいえる「青空」をながめる事も健康に悪い、ということでなければつじつまが合いません。しかしPCメガネ販売店のサイトでは、そのような自然界にあふれる「ブルーライト」も含め総合的な視野で説明している記述は一切見当たりません。

また、青色LEDが特殊であるから云々という事であれば、最近省エネで注目されているLED照明を使用したら部屋中「ブルーライト」だらけになります「PCメガネを使おう」どころか、「LED照明は人体に悪影響があるので使用するな」でなければつじつまが合いません。しかし、このような説明はどのPCメガネのサイトでも、なぜか一切述べられていません。

さらに、「ブルーライト」を夜に浴びると生活リズムが崩れるという説もあります。「ブルーライト」をだけ昼に大量に浴びる事により生活リズムが保てるという理屈です。しかしこれが正しいのなら、PCメガネを昼に使用すると生活リズムが崩れるということでなければつじつまが合いません。しかし、昼に使用するとむしろ害があるという注意書きをしているPCメガネのサイトも見たことがありません。

私は「LED液晶ディスプレイのブルーライトの害悪」や「ブルーライトが体内時計を狂わす可能性」などを否定するつもりはありません。しかし本来「ブルーライト」の害悪をうったえるのなら、「青空のブルーライトの危険性」や「LED照明の害悪」「昼にPCメガネを使うことの弊害」を同時に説明すべきだと思います。しかしそうせずにまるでLED液晶ディスプレイだけが悪いかのような説明をしていることに、不誠実さと不信感を感じ、またそれを信じてしまう人がいることに危機感を感じています。

「ブルーライト」は赤い光と緑の光に比べ短い波長でエネルギーが強い事は間違いのないことです。実際、「ブルーライト」による眼疾患は存在します。しかしそのような眼疾患患者は、まずは屋外の自然光に対して強いまぶしさを感じます。私の同僚にもいましたが、PC作業と関係なく普段から遮光眼鏡を使用していました。しかし屋外の自然光では何の問題もないのに、LED液晶ディスプレイを使う時だけ問題が発生することはまず考えられないと思います。


LED液晶ディスプレイの光とその調整

LED液晶ディスプレイを初期設定のまま使用すると、光が強すぎて目を疲れさせるケースはよくあることですLED液晶ディスプレイがまぶしいと感じる場合には、まず第一番目に、まぶしくないようにLED液晶ディスプレイの設定を調節する事が望ましいでしょう(いちいち書くのがばかばかしくなるほど当たり前のことですが…)

まずは光の強さを調節するといいでしょう。設定はLED液晶ディスプレイによって異なりますが、輝度(Brightness)/コントラスト(Contrast)/色あい(Color Settings)/色温度(Color Temperature)等があります。大雑把に言えば、輝度とコントラストは低くすると暗くなります。色あいについては青緑赤の3つの値を同じ比率で下げる事により、色味をそのままで明るさを調節する事ができます。

色温度は「ブルーライト」と赤色光の相対的な強さを示す値で、高いほど青白く低いほど黄色味がかかって見えます。色温度が低いほど「ブルーライト」は少なくなります。日本では青白い色が好まれる傾向があったため、初期設定では9300Kとなっていることが多いのですが、海外では6500Kとなっています。(設定方法の詳細は、お使いの液晶ディスプレイの説明書をお読みください)。色合いを自由に調節できるタイプでは、青のみを少なくすると色温度を低くしたときとほぼ同じ効果があります。

会社で新しく購入したLED液晶ディスプレイの初期設定は、Brightness:75、Contrast:75になっていました。いまはこれをBrightness:10、Contrast:70にしています。輝度・Brightnessはバックライトの光の強さで、これを低くすると節電効果があります。自宅でワットチェッカーで計測してみたところ、輝度100では31watt、輝度0では19wattと約40%も差が出ました。色温度は色味の好みの問題があるのでなんともいえませんが、自分の好みの色味に調節するといいと思います。青白い色味が好みであるならば9300Kでいいと思いますが、通常は7200Kか6500K程度に、黄色っぽい色味が好みであるならば5000K程度にするといいでしょう。


PCメガネの効果

PCメガネには、吸収タイプと反射タイプがあります。どちらのタイプでも「ブルーライト」をカットした分、視界が黄色くなります。色味を変えずに「ブルーライト」だけをカットすることは物理的に不可能です。視界があまり黄色くならないレンズは、実際には「ブルーライト」をカットする能力が低いという証拠ですので気をつけましょう


以下の図は、PCメガネ販売業者で使用されていたものです。図1を見ると、各種LED液晶ディスプレイから450-460nmあたりのブルーライトがたくさん出ていることがわかります。一方で紫外線の領域とその近辺の380-420nmあたりは、LED液晶ディスプレイからはほとんど出ていないことがわかります。図2はPCメガネのレンズで、各波長の光がどの程度透過するかを示したグラフです。透過率が低い部分ほどカット率が高いことになります。これを見るとLED液晶ディスプレイからたくさん出ているとする450-460nmの領域は、「ブルーライト50%カット」をうたうレンズで20%程度、「30%カット」のレンズで10%程度のカット率であることがわかります。一方で、LED液晶ディスプレイからはほとんど出ていない380-420nmあたりは非常に高い割合でカットできることがわかります。

つまり
  • LED液晶ディスプレイからたくさん出ている「ブルーライト」を20%程度カット
  • LED液晶ディスプレイからごくわずかにしか出ていない近紫外線の「ブルーライト」を90%カット
  • LED液晶ディスプレイからはまったく出ていない紫外線の「ブルーライト」をほぼ100%カット
など、たくさんカットするところやほとんどカットしないところがあり、すべての「ブルーライト」カット率を平均したものが50%であるということです。PCメガネ販売業者は、「50%カットなのに見え方があまり変わらない」などといって販売することがあるようなのですが、鵜呑みにせずにLED液晶ディスプレイからたくさん出ている「ブルーライト」はあまりカットできないだけということを理解しておいたほうがいいでしょう。

とはいっても、PCメガネ販売業者の商品が無価値だなどというつもりは毛頭ありません「50%カットレンズ」では20%程度、「30%カットレンズ」では10%程度のカット能力があります。そのカット率で十分であるなら、その商品を使うことに何も問題はないでしょう。

もしもブルーライトをきちんとカットしたいのであれば、偏光グラスを使用すべきでしょう。



「ブルーライト」に対する対策

屋外の自然光や室内の蛍光灯などなにもかもまぶしいと感じる方は、眼疾患の可能性があります。眼科で検診を受け、きちんとした遮光眼鏡の使用を検討したほうがいいでしょう。きちんとした遮光眼鏡は「ブルーライト」をほぼ100%カットし、前方だけではなく上部や側部からの「ブルーライト」もカットするよう工夫されているものもあります。

室外でも室内でもまたLED液晶ディスプレイを使って作業を続けても、特にまぶしさを感じない場合には何もする必要はないでしょう。

LED液晶ディスプレイがまぶしいと感じる場合には、まずは液晶ディスプレイの明るさの設定を変えるべきでしょう。また、液晶画面を暗くしてもダメで青い光が苦手という人は、液晶ディスプレイの設定で色温度や青を下げるといいでしょう。

複数のPCを複数の人で共有していて、いつどのPCを使うか決まっていない場合や、PCサポートでいろいろな人のPCをみる仕事の人など、何らかの理由で液晶ディスプレイの設定を変更できない人は、PCメガネを使用するといいでしょう


経験談

私も丸一日(10時間程度)かけてみたのですが、視界が全体的に黄色くなる事以外に効果は感じられませんでした。私は新しいLED液晶ディスプレイ購入時にまぶしいと感じていたので、まぶしくないようにLED液晶ディスプレイの設定変更をし、その後問題がなくなっていたからだと思います。もしかしたらまぶしい状態に変更してPCメガネをかければ効果を感じたのかもしれませんが、ばかばかしいのでやりませんでした。マイナス点で言えばメガネをかける事の違和感が大きく、その事がむしろストレスに感じました。さらに安いレンズを使っているせいか映り込みが激しくその事も気になりました。

少なくとも、「PC作業でストレスを感じていない人には、PCメガネのメリットは無い」といえると思います。他の人では、「偏頭痛になる頻度が減った、絶大な効果がある」といって毎日かけ続ける人もいれば、「効果は無い、邪魔だ」といってすぐに人にあげてしまった人もいました。効果の感じ方は人それぞれであるようです。一方で実際に使用して劇的に改善効果があったという人もいます私はそのような人を否定するつもりはありません。しかし大部分の人にとっては無用の長物ではないかと思います。

まとめ

  • PCメガネ販売業者は、LEDをバックライトに使用した液晶ディスプレイだけ(以下LED液晶ディスプレイと呼ぶ)が問題であるかのように説明している
  • 「ブルーライト」は単なる青い光のことで、特別なものではない
  • 「ブルーライト」は自然界にあふれているし、蛍光灯にも含まれている
  • 青空光の「ブルーライト」は、LED液晶ディスプレイよりもはるかに強い
  • LED液晶ディスプレイから「ブルーライト」だけが特別に多く発せられているという事実はない
  • 「ブルーライト」が人体に悪影響があるのなら、青空を眺めるのも健康に悪いはず
  • LED液晶ディスプレイが特別な問題を持っているのなら、LED照明も悪影響があるはず
  • 「ブルーライト」が生活リズムに関係している説を正しいとするならば、昼にPCメガネを使用すると生活リズムが崩れるはず
  • 本サイトでは「ブルーライト害悪説」を否定するわけではない
  • しかし、PCメガネ販売業者の唱える「ブルーライト害悪説」は、都合のいい断片的な事実のみをつぎはぎし、LED液晶ディスプレイだけが問題であるかのような説明をしているているため問題に感じている
  • 屋外の「ブルーライト」による眼疾患は確かに存在する
  • 屋外の自然光で何も問題ない人が、LED液晶ディスプレイを使うときだけ問題が発生するということはまず考えられない
  • LED液晶ディスプレイがまぶしいなら、まぶしくないよう設定を変更して調節すべき
  • 視界があまり黄色くならないレンズは、実際のカット率が低い
  • LED液晶ディスプレイから発せられる「ブルーライト」は大部分が450-460nmあたり
  • PCメガネの450-460nmあたりの「ブルーライト」カット率は、「50%カット」をうたうもので20%程度、「30%カット」をうたうもので10%程度
  • PCメガネ効果の感じ方は人それぞれ
  • PC作業で特に疲れを感じない人は、PCメガネは必要無い
  • もしも本当にLED液晶ディスプレイからでるブルーライトを防ぎたいなら、450-460nmをきちんとカットする偏光グラスを使用すべき
LED液晶ディスプレイの光が気になった場合には、以下の順で対策するといい
  • LED液晶ディスプレイの設定を変えられるのなら
    • 全体的にまぶしい場合:LED液晶ディスプレイの設定の輝度・コントラストを下げる
    • 青色光だけがまぶしい場合: LED液晶ディスプレイの設定の色温度を下げるか、色あいで青の値を下げる
    • 上記の対策を行った上でも解決しない場合:450-460nmをきちんとカットする偏光グラスを使用する
  • LED液晶ディスプレイの設定を変えられないのなら
    • 全体的にまぶしい場合: サングラスやファッショングラスを使用する
    • 青色光だけがまぶしい場合:450-460nmをきちんとカットする偏光グラスを使用する

余談

10年位前に携帯電話やPCから健康を害す電磁波が大量に出ているというふれこみで、電磁派防止グッズが大流行しました。あの頃は私の身近な人もだまされ電磁派防止エプロンなどを使っていました。また、SEなのに電磁波防止サボテンなるものを信じ込み購入してしまった人も見たことがあります。昨今の「ブルーライト害悪説」の流行ぶりは、電磁波害悪説が流行した時の状況に似ているように感じています…。

またさらに余談ですが、近年都市部のJRの駅のホームの「先頭」に青色LEDのライトが設置されています。つまりむき出しの「ブルーライト」そのものです。これは実は自殺防止を主な目的として設置しているそうです。心理学者の研究によると「ブルーライト」には精神を落ち着かせる効果があるとされており、設置した箇所で以下のようなデータが得られています。
  • イギリス・グラスゴー市で2000年に設置、犯罪発生件数が減少した
  • 奈良県警察で2005年に設置、1年後に周辺の夜間の犯罪認知件数が約9%した
  • JR西日本で2006年12月~2011年3月末に管内94か所に設置、設置後の自殺件数はおおむね半数以下に減少した
  • JR東日本で2009年から設置開始、山の手線全駅に設置。その他の駅でも設置箇所を増やしている。効果は測定中

…ある方面では害悪があるとされ、ある方面では鎮静効果があるとされる「ブルーライト」。PCメガネで「ブルーライト」をカットしてしまうことによりイライラして、犯罪を起こしたり自殺したり…なんてことが起きないといいですね。


2012/08/05


追記

この記事を公開した翌日に、EIZOブランドのPCディスプレイの有名メーカー(株)ナナオが、新製品の発表の際に(ついでに?)ブルーライト害悪説を否定する有力なデータを公開していました。


簡単にまとめるとこのような内容になります。
  • LED液晶モニターのブルーライトは、ピークは確かに大きいが全体では大差はない
  • 輝度が高い状態ではブルーライト・緑色光・赤色ともに多くでている
  • 適切に設定すればブルーライトは抑えられる



よく考えたら、ブルーライト害悪説の内容は「LED液晶ディスプレイから有害な光がでており、LED液晶ディスプレイのメーカは何の対策もしていない」とレッテルを貼っているのと同じです。そりゃメーカーは反論しますよね。


「ブルーライト」害悪説の元となっているのであろう情報

また、LED液晶ディスプレイの光に「ブルーライト」が多く含まれているとする情報の中に重要な資料をみつけました。

記事中では「LED液晶ディスプレイはその構造上、ブルーライト成分がブラウン管に比べて非常に多く含まれている」と書いてあります。しかし見逃す事のできない一文を発見しました。それは「ディスプレイの輝度を最大にして測定」の部分です。グラフをよく見ればわかりますが、「ブルーライト」だけではなく緑色光も赤色光もブラウン管モニタに比べ、信じられない量を放出しています

これは、「LED液晶ディスプレイはブルーライト成分が非常に多く含まれている」というよりも、輝度を最大にしたLED液晶ディスプレイはブルーライト成分が非常に多く含まれている」というべきで、常識的に判断すれば、「液晶ディスプレイはブラウン管よりも明るい設定にする事ができる」というだけの事でしょう。

このことからいわゆる「ブルーライト害悪説」は、非常識ともいえる前提条件の下で測定された数値を元に、商業目的で意図的に造られた説である可能性があります


2012/08/19



※ちなみにこのサイトでは、Google AdSenseによる広告をつけています。ご存知の方も多いと思いますが、Google AdSense は、ウェブページの 内容に応じて関連した広告を自動的に表示してくれます。このページではPCメガネのことを取り上げているため、「否定内容のページにPCメガネの広告が表示されやすい」という皮肉な現象が起きています。決して私が意図してPCメガネの広告を張っているわけではありませんよ。あしからず…。