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お酒が強い人と弱い人

お酒が強い人と弱い人の違いとその原因についてです。

アルコールは胃で20%・小腸で80%吸収され、血管を通じて脳内に入り「酔い」の状態になります。そして、アルコールは2種類の酵素で分解されます。
  • アルコール脱水素酵素 (ADH)
  • アセトアルデヒド脱水素酵素 (ALDH)

アルコールはまず、アルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドになります。そして、アセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素によって酢酸になり、最終的に水と二酸化炭素に分解されます。

アルコールは脳を麻痺させる作用があり、これが血中にとどまると気持ちよくなったり記憶を失ったりします。アルデヒドは毒素で、二日酔いの成分です。酢酸は無害です。



アルコールの主な作用は以下です。
  • 脳の麻痺→気分の高揚
  • 過去の記憶や感情が蘇る→笑い上戸・泣き上戸
  • 善悪の正しい判断ができなくなる
  • 運動機能・反射能力の低下
  • 記憶の喪失
  • 意識の喪失
  • 心肺機能の低下・停止

アセトアルデヒドの主な作用は以下です。
  • 血管の膨張→顔を赤らめる・心拍数の上昇
  • 吐き気
  • 頭痛
  • いわゆる「二日酔い」の症状
  • 脳貧血 (血管の膨張により血圧が低下するため)
  • 冷や汗 (脳貧血によるもの)
  • 視界が失われる。目の前が真っ白になる (脳貧血によるもの)
  • 意識の喪失 (脳貧血によるもの)

ざっくり言うと、気持ちよくなったり楽しくなったりするのはアルコールの作用、頭が痛くなったり気持ち悪くなったり吐いたりするのはアセトアルデヒドの作用ということになります。それぞれの分解能力には個人差があり、その強弱によってお酒に対する強さが変わります。


特徴的なタイプ

酒豪タイプ

アルコール分解能力もアルデヒド分解能力も高い人は、いわゆる酒豪タイプです。たくさん飲んでも酔いつぶれないし、二日酔いにもなりにくいタイプです。

逆に「酒に弱い」タイプは大きく2種類あって、下戸タイプと酩酊タイプになります。表中のピンクの部分に当たる人です (危険といえるほど弱いので赤めの色にしました)

下戸タイプ

下戸タイプは、アルコール分解能力が高くアルデヒド分解能力の低い人です。酒豪並みにアルコールを分解し毒素であるアルデヒドを素早くたくさん作るのですが、その毒素を分解できないため体内に毒素がどんどんたまってしまうのです。皮肉なことに「アルコール分解能力が高い」ことがあだとなって「アルコールに弱い体質」になっているのです。飲んですぐに頭が痛くなったり嘔吐したりする人は下戸タイプです。

また、下戸タイプは、脳貧血を起こすこともあります。アセトアルデヒドの作用により血管が膨張し低血圧状態になり、脳への血流が不足してしまうのです。そうすると冷や汗が出たり、意識を失ったりします。顔が赤くなった後に青くなったら、脳貧血が始まっているサインです。危険な状態です場合によっては死ぬかもしれませんそれ以上飲まない・飲ませないよう注意しましょう

私は下戸タイプを「飲んだ直後に二日酔い」と表現しています。飲んでも楽しくなる事がなく、すぐに苦しみが来るのです。無理して飲んでも吐くだけで楽しくはないでしょう。そういう人はお酒はあきらめて、別のことに楽しみを見つけたほうがいいと思います。

酩酊タイプ

酩酊タイプはアルコール分解能力が低いので、少量のアルコールでも脳が麻痺しやすいのです。よく言えば、お酒を少し飲んだだけで酔えるエコな人です。酩酊タイプの人は下戸タイプの人とは違って、量をきちんとセーブすればお酒を楽しめます。

しかし飲みすぎて悪くすると大脳の機能も麻痺し、心肺機能が正常に制御できなくなり死亡することもあります。酩酊タイプの人が飲みすぎると、生命の危険すらあるので飲みすぎないよう気をつけましょう

分解能力の差の原因

分解能力の強さは遺伝により決まります。さらに、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)にはALDH1とALDH2があって、ALDH1は主に細胞質に存在し、ALDH2はミトコンドリアに存在します。ALDH2は効率のよい酵素なのですが、日本人の40%が遺伝的に欠損しているといわれています。そのため日本人には生まれつきお酒に弱い人が多いのです。

また分解能力は、訓練により最大20%程度分解能力が増えるともいわれています。しかし肝臓の処理能力を超えて酷使し続けると肝臓病になります。

急性アルコール中毒

急性アルコール中毒は、血液中のアルコール濃度が高まり脳が麻痺することにより発生します。急性アルコール中毒になると昏睡状態に陥ったり、麻痺が脳幹部や脊髄にまで及ぶと自律的に呼吸や心拍を動かすことすら出来なくなり、心肺停止に陥ります。

東京消防庁の発表によると、東京消防庁管内で発生した急性アルコール中毒による救急搬送人員は、男女合わせると毎年1万人(データは平成20~24年)を超えています(東京消防庁 - 他人事ではない「急性アルコール中毒」)。これは東京だけの話です。また、大学生の死亡例も毎年発表されています。


急性アルコール中毒は体質に関係なく発生するという説明をするサイトもありますがこれは間違いです。血中アルコール濃度の上昇は、肝臓でのアルコール分解が間に合わなくなったアルコールが血中に溶け込むことによって生じます。ですので、当然アルコール分解能力が高ければ高いほど急性アルコール中毒になりにくく、アルコール分解能力が低ければ低いほど急性アルコール中毒になりやすいのです。

つまり、上記のタイプ分けの表で言うと「酒豪タイプ・やや酒に弱い人・下戸タイプ」は急性アルコール中毒になりにくく、酩酊タイプが急性アルコール中毒になりやすいといえます。

とはいえ、「なりやすい」「なりにくい」の話であって、「なる」「ならない」の話ではありません。ジョッキで一気飲みをしたりすれば、酒豪タイプであっても急性アルコール中毒になる可能性は十分にあります。一気飲みは控えましょう。


強要はやめましょう

「飲んでれば強くなるんだ」といって、嫌がる人にも飲ませようとする人がいます。それは部分的には正しいのですが、本当に飲めない人に無理やり飲ませても大して強くなりませんし、健康を害させたり悪くすると生命の危機にさらさせることになります。お酒を無理に勧める行為は、暴力や虐待もしくは拷問と一緒です。度が過ぎれば、殺人未遂もしくは殺人そのものとも差がなくなります。本人の体質を考慮せず、また本人の意思を無視し、お酒を強要するようなことはやめましょう

1990年代以降、アルコールを強要することなどを意味する言葉として「アルコール・ハラスメント」「アルハラ」という言葉が生まれました。そのせいで、認知が広がったとともに、セクハラやパワハラの仲間と思われるようにもなりました。「嫌がることを強制する」という意味では同じなのですが、セクハラやパワハラでは、少なくとも直接的には死ぬことはありません。しかしアルハラは人を殺しかねません。実際に何人も死んでいるので社会問題になったのです。アルハラは違いをきちんと認識してほしいと思います。皆さんも、ついうっかり人を殺さないよう気をつけましょう。


余談

私はいわゆる下戸で、飲むと5~10分程度で二日酔いの症状が出ます。かなり強めの下戸です。体調にもよりますが、ビールをグラス3杯飲むと50%くらいの確率で吐きます。全く楽しくなりません。グラス5杯飲んだら命を落とすかもしれません。

また、ひどいときには脳貧血で倒れて血だらけになったこともあります。何を飲んだかよく覚えていませんが、おそらくはサワー1杯だったと思います。そのときは吐きそうになって外に出ていて、突然症状が悪化し立った状態から姿勢が保てなくなり、頭から地面に倒れこみコンクリートに頭を打ちつけ、額から流血して血だらけになりました。意識がほとんどなく体が動かないので、手をつこうとする動作をすることもできないのです。

私は上記の下戸の説明の中で、半分冗談で「場合によっては死ぬかもしれません」と書きました。しかし、脳貧血で倒れたときに運よく歩道だったので血だらけで済みましたが、これが車道に倒れていたり、駅で線路に転落などということにでもなったら、本当に死んでいたかもしれません。ですので半分は本気で書いています。

アルコールでは本当に生命の危険を感じることがしばしばあります。ですので、極力飲まないようにし、どうしてもというときは乾杯の最初の一杯だけにとどめるようにしています。

飲める人には、飲めない人の気持ちや事情が理解できない人がいます。また、理解できないがために嫌がる人にアルコールを強要する人がいます。そういう人に、ぜひこのページを見せてください。そして、お酒を強要すれば人を殺しかねないということを知ってもらいましょう。


新規作成:2014/11/24
加筆修正:2015/03/05